現代に通じる自由と孤独を描く純文学|夏目漱石『こころ』

読書

読書をしたいと思ったときに純文学は難しそう、というイメージはありませんか。
テーマが重かったり、結末が曖昧だったりするので手が伸びないという方もいるかと思います。
ですが、読んでみると案外自分と重なる部分があり興味深く読める作品も数多く存在します。
今回は夏目漱石の『こころ』を読んだ感想をレビューします。

夏目漱石『こころ』はどんな作品?

『こころ』は夏目漱石の長編小説で、1914年4月20日から8月11日まで朝日新聞で『心 先生の遺書』として連載され、同年9月20日に岩波書店より刊行されました。
『彼岸過迄』『行人』とともに後期三部作として知られています。
刊行後に学習院大学で行われた『私の個人主義』(青空文庫)という講演も読んでみるとより理解が深まるかと思います。

『こころ』を読んだ理由

わたしが『こころ』と出会ったのは高校生の国語の授業でした。夏休みの課題で読書感想文を書いたものを偶然見つけたのですが、高校生のわたしは恋愛小説と思って読んでいたようです。

その後も何度か読み返していましたが、今のわたしはどう感じるのか、久しぶりに読んでみました。

あらすじ

若き書生の私は、鎌倉の海で先生と出会い、深い関心を抱くようになります。先生はどこか孤独で、人との距離を置いて生きている謎めいた人物でした。
やがて私は先生に強く惹かれ、何度も自宅へ通ううちに親しい関係になるものの、先生は自分の過去についてほとんど語ろうとしません。
そして私が父親の見舞いで帰省している最中、先生から長い手紙が届き、心の奥に秘められた過去や苦悩が明らかになっていく。

印象に残ったテーマ

わたしが『こころ』を読んで印象深かったテーマは大きく3つです。
それぞれ感じたことをお伝えします。

自分が抱えている矛盾

「恋愛とは罪悪だよ」
高校生のわたしはこの言葉にとても衝撃を受け、その後も何度も読み返すきっかけになりました。その頃のわたしには恋と罪悪はかけ離れていました。
先生の思う「恋」はただ誰かを好きになることではなく、自分の欲望や嫉妬、独占欲を含んだ利己的なものだったように思います。

正直でありたいのに本音を言えば大切な人を失うかもしれないから正直に話せない。
友の幸せを願いたいが、自分の幸せも諦められない。
その矛盾が先生を苦しめ、自分を赦すことができなくなってしまいました。
矛盾に気づくと同時に利己心に気づいた事も”先生”を苦しめた原因の一つだと思います。

矛盾は誰しもが抱えているものです。
みんな自分がいちばんかわいいのです。
善い人でありたいと思いながらも、自分のことも守りたい、傷つきたくないし失いたくない。
きっとこれは先生だけでなく、多くの人が抱える矛盾なのだと思います。
『こころ』を読んだ時にふと自分にも利己心があると気づき、苦しくなるのかもしれません。

自由と孤独

先生は自由でした。
財には困らず、頼る親類もいない。
自由だったからこそ後悔も罪悪感も孤独も、全て一人で背負わなくてはなりませんでした。
そして先生はずっと自分を赦せずにいました。

お嬢さんを大切に思うからこそ心を打ち明けられず、孤独を選びました。
お嬢さんを悲しみからは守れたけれど、一緒に罪を抱えたかったかもしれないお嬢さんの気持ちは置いて行かれてしまっています。
そこには先生の優しさとエゴがあり、最後まで一人で苦しみを抱え込もうとしました。

人は誰しも自由ゆえに間違うことがあります。
その責任を認めることは大切ですが、ずっと抱えていては擦り切れてしまいます。
自分を赦すことも自分の間違いに対する責任だとわたしは思います。
自由であることは孤独なのだと思いますが、ただ孤独なのでは人は生きていけないと感じます。

赦さなくても救われる

先生はただ一人、私にだけは自分の過去や苦悩を知ってほしいと考えました。
きっと最後まで話を聞き、意味を持たせてくれると期待しました。

「ただあなただけに、私の過去を物語りたいのです。」
「記憶してください。私はこんな風にして生きてきたのです。」

私は自分の過去から学びを得てこれからの糧にしてくれると信じたのだと思います。
手紙を書きながら自分の人生を再び巡り、自分は許せなかった人生だったけれども、
最期に意味を持たせられたことは先生にとって救いになったのではないでしょうか。

まとめ

わたしはこころを読んで、現代人が抱える悩みや不安がそのまま描かれているように感じました。
善くありたいと思うことと利己心の矛盾や、自由な選択の裏には孤独があるということ。
みなさんも矛盾や孤独を感じて苦しんだことがあると思います。
自分だけがいい思いをしたいとか、上手くいかないことを誰かのせいにしたくなったり、
人の心には善くない部分が必ずあります。
善くないと自覚したとき、どう自分を赦すのか考えづづけなくてはなりません。

『こころ』は現代人にも通じる苦悩や心の揺れが描かれています。
登場人物それぞれの悩みも共感できるものばかりです。
難しいテーマを扱っていますが、どう生きるのかを考えるきっかけになると思いますので是非読んでみてください。

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